本記事では、 コンサルティングファームに就職、転職しようとしている方に向けて、ケース面接の流れや対策などについて紹介します。
- ケース面接の基本と対策
- ケース面接の流れと例題
- ケース面接の参考書
ケース面接はしっかりと対策をしていなければ本番での対応が難しいため、 事前にどれだけ準備をしたかにかかってきます。
また、これらの対策に取り組んでいくことでビジネススキルを磨くことにもつながります。
本記事では、ケース面接の流れや、例題と回答例を交えて対策を行う上でのコツをご紹介していきますので、最後までお読みいただければ幸いです。
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コンサルティングファームのケース面接とは
「ケース面接」(あるいは「ケース・インタビュー」)は、コンサルティングファームの採用面接において必ずと言っていいほど行われる面接です。
そして従来の面接のイメージとしてよくある、志望動機、これまでのキャリア・実績、自己分析(強み・弱み)などを聞く面接とは内容がまったく異なります。
コンサルティングファームの採用面接においてケース面接の結果が占める割合は大きなものです。言い方を変えれば、“ピカピカの”バックグラウンドを持ち、その会社で働くことへの高い熱意を持っている人でも、ケース面接で失敗するとまず採用されることはありません。
そしてごくまれにいる特殊な人(=“生まれついてのコンサルタント”)を除くと、まったくの準備無しにケース面接を受けた人の結果は残念なものになってしまうでしょう。
コンサルティングファームで働きたいとう人が増えるにつれて、ケース面接への注目度も高まっています。世の中にはケース面接の“対策本”や関連するウェブサイトなども数多くあります。
しかし、中には“ロジカルな考え方に基づく”ケース問題への“模範解答”を示すだけで、面接官は候補者の何を見ているのかとか、面接官の気持ちを考えればどう伝えるべきかといった点には触れていないものも含まれています。
この記事では実際に私が戦略コンサルティングファームのコンサルタント時代に面接官をした経験をもとに、ケース面接とはどんなもので、面接官はどのようなところを見ているか、どんな風に対応すれば良いのかなどケース面接対策のポイントを説明し、いくつかの例題と解答例をご紹介したいと思います。
まずは、ケース面接やフェルミ推定の詳細について解説していきます。
ケース面接=フェルミ推定ではない
世の中の就職情報書籍やウェブサイトを見ていると、ケース面接対策と称してフェルミ推定について延々と説明しているものが見られます。これはよくある誤解なのですが、コンサルティングファームのケース面接が必ずフェルミ推定である訳ではありません。
フェルミ推定とは?
フェルミ推定とは、正確な値を得ることや実際に調査することが困難な数量を、わずかな情報や値を元に論理的な推論を進め、短時間で定量的な概算をすること(小学館デジタル大辞泉より)とあります。
例えば、「10円玉を富士山の高さまで積み上げるには何枚必要か?」、「東京都内にマンホールはいくつあるか?」といったような質問に答えること。ケース面接の一つの種類としてフェルミ推定の要素が強い問題が出される場合はあります。
また、ケース面接の中で使う一部の数字をフェルミ推定で導く場合もあります。しかし、すべてのケース面接がフェルミ推定という訳ではないのです。
例えば戦略コンサルティング会社の一つであるA.T. カーニーの東京オフィスは、ホームページで応募者向けに以下のように説明しています。
ケース・インタビューについて
ケース・インタビューとは、インタビュー(面接)を行うコンサルタントがクライアントの立場で、ある問題を提示しその解決策の提言を求めるシミュレーションを行うインタビューです。
いわばコンサルティング・プロジェクトの縮図と言えるでしょう。問題への解答を作り上げ、それを伝える過程は、コンサルティングに求められる多くの資質が試される場となります。(以下略)
上記の説明にあるように、ケース面接は「コンサルティング・プロジェクトの縮図」です。従ってコンサルティングのテーマになるような多様な問題が出題されます。
もちろんその中には、市場規模を推計する、ユーザー数を推計するなどのフェルミ推定が必要な問題もあります。
しかし一方で、「あなたが町のパン屋さんの経営者なら、売上を倍増させるためにどんな打ち手を打ちますか?」とか、「あなたにプロ野球球団の買収の話が持ちかけられたら、意思決定のためにどんな検討をしますか?」といったような「経営問題」が出されることも多いのです。
ケース面接では何が評価されているのか?
問題がフェルミ推定であるにせよ、売上拡大策の検討であるにせよ、ケース面接で面接官が評価しているものは基本的に同じです。
大きく分ければ2つの能力、「考える力」と「コミュニケーション力」です。そして通常の場合、候補者に対してケース面接を行いこれらの能力を評価するのは、その会社の第一線で活躍しているコンサルタントです。
コンサルタントは「自分がこの人と同じチームで働くとしたら」、「自分がマネジメントするチームにこの人が入ったら」といった視点で候補者を見ています。
その1:考える力
「考える力」といってもいろいろな要素があります。筆者がコンサルタント時代にインタビュアーをやった時に採用チームから示されていたチェックポイントには、「ロジカル・シンキング」、「数字感覚」、「独創性」、そして「地頭の良さ」といった項目が並んでいました。
それぞれ詳しくみていきましょう。
(1)ロジカル・シンキング(論理的思考力)
これは物事の解決策を考えていくのに、きちんと論理立てて考えているかということです。平たく言えば、「何故それが答なのか」を筋道立てて説明できるかです。
例えばパン屋さんの売上倍増という問題に対して、「来店客に売るだけでなく、デリバリー販売も行う」を打ち手として答えるのであれば、「デリバリーへの顧客ニーズが強いから」という説明だけでは不十分です。
パン屋さんの売上や顧客構成の現状分析、そこから考えられる売上増加策のオプション、その中でデリバリーが有望である理由というように、その打ち手に至った思考の道筋を示す必要があります。
(2)数字感覚
コンサルタントは様々なデータを探し、分析します。
しかし全ての数字を最初から詳細なレベルまで調べていたのでは、時間がいくらあっても足りません。
細かく調べる前にざっくりとした数字を“置いて”みて、初期仮説を粗くチェックしてみる(Back of the envelope=封筒の裏に買いて計算する、という表現を良く使います)ことはよくあるので、“置き”の数字を設定する時の数字感覚も実は重要です。
ですからケース面接の中で、「仮にこの数字を1,000と置くと…」のように出てきた数字が、面接官にとっても違和感が無いかは実は結構関心事なのです。
ましてや「日本の人口を1億2千万人とすると…」くらいの常識的数値は押さえていて欲しいという想いは必ずあります。
(3)独創性
最近は就職対策本を読んだり、転職エージェントのケース面接対策を聞いたりして、多くの候補者が“ロジカルに答える”練習をしています。
そのせいか、「A社の利益を拡大するには?」と聞かれたら「利益は売上マイナス費用なので…」、「商品Bの市場規模は?」と聞かれたら「ユーザーを年齢別にセグメントしてみると…」など、どこかで聞いたことのある“フレームワーク”を持ち出して説明をする候補者がたくさんいて、聞いている面接官の側から見ると「またか…それで?」となりがちです。
ですから、“定番”のフレームワークを使っていてもその分析の内容がユニークだとか、そもそも考えるアプローチが面白いといった独創性やイマジネーションにあふれた候補者の評価は高くなります。
(4)地頭の良さ
「地頭」という言葉、最近よく耳にするようになりました。昔、初めて聞いた時には「地肩が強いなら野球で聞いたことあるけど、地頭が良いってなんだ?」と思ったものです。
とはいえ、依然として曖昧な言葉であるのは事実で、いまだに世間の定義も、「学習によって覚えたのではない、持って生まれた頭の良さ」、「論理的思考、コミュニケーションなどを含めた総合的な頭の良さ」、「情報を深く読み取り、素早く処理する力」…など様々です。
私が面接官をやっていた時の個人的な経験で言えば、その候補者と“いい議論”をできた時は地頭のいい人だったなという印象を持つことが多かったように思います。
つまりこの後に説明するコミュニケーション力も含めた、総合評価的なものとして“地頭の良さ”は考えられがちです。
その2:コミュニケーション力
コンサルタントというと論理的な思考や分析力が強調されがちですが、実はとても大切なのがコミュニケーションです。
コンサルタントはクライアントの課題を解決するのがミッションですので、当然クライアントとのコミュニケーションなしに業務は成り立ちません。
また、ユーザーインタビュー、エキスパートインタビューなど、人の話を聞いて学ぶことも仕事の大きな割合を占めます。
そういう意味でコミュニケーション力はとても重要な評価ポイントです。コミュニケーション力は大きく分ければ、「聞く力」、「伝える力」そして「相手に接する姿勢」と言えます。
それぞれ詳しく解説していきます。
(1)聞く力
ケース面接では面接官が問題を伝え、候補者が考えた答に対して質問をします。
従って、まず面接官が出した問題を正しく理解する必要があります。利益「率」拡大を求められているのに、販売数量を増やすことで利益「額」を拡大するといった解答をしたのでは話になりません。
よく問題を聞いた上で、疑問点があれば確認しておくことが必要です。ただしあまりに細かなことまで聞くのは考え物です。
たまに、「その市場は年%の成長率なのでしょうか」、「競合企業は何社くらいいるのでしょうか」、「社内のリソースは」…と細かく質問を繰り返す方がいますが、自分で考えていないようで、正直あまり印象は良くありません。
ケース面接で重視されるのは“正しい答”を出すことより“正しい考え方”をすることです。
その数字を明確にすることが考える道筋においてとても重要なのであれば確認しておく方がよいのですが、それ以外は「〇〇という前提を置きました」という形で進める方がスマートです。
また、候補者が出した答に対しては、面接官が質問をするのが普通です。この時、面接官は候補者の論理構成で腑に落ちないこと、抜け洩れのあることなどを「質問」という形で突いてきます。
単なる“質問”に答えるというより、自分の論理構成に対してその質問が示唆するものは何なのかを考え、“アドバイス”を受けるようなつもりで聞くことが必要です。
(2)伝える力
自分の考えた内容をきちんと伝えられるかです。実際のコンサルティング・プロジェクトでは、資料作成という“書いて伝える”力も求められますが、ケース面接の場で評価されるのは主に“話して伝える”力になります。
大きな声でハキハキ話す、相手を見て話すといったどんな面接でも求められる要素が必要なのは言うまでもありませんが、最大の評価ポイントは面接官に対して自分の考えを筋道立てて説明できるかです。
これは実は、論理立てて考えられているかという「考える力」と裏表の関係です。当たり前ですがよほどのプレゼンの天才でもない限り、ぐちゃぐちゃの論理構造で考えたことを話す時だけ論理的に構成することは不可能ですから。
(3)相手に対する姿勢
ここで相手に対する姿勢と言っているのは、礼儀正しさといった基本のことではありません。相手の言うことを尊重し、相手の意見からも学ぼうという姿勢があるかということです。
例えば、自分の解答に対して面接官から「こう考えてみたら」とか「こんな検討も必要では」と指摘されたとします。
この指摘を自分の解答への“ダメ出し”ととらえ、自分の解答の正当性をひたすらアピールするのでは面接官の評価は「他人の意見に対してディフェンシブ」という低い評価になるでしょう。
仮に候補者が面接官の意見に対して反論し、“完全論破”したとしても恐らく高い評価は得られません。面接官に媚びへつらう必要は全くないですが(それはそれで自分の意見が無いと低く評価されます)、面接官が敵であるかのような対応をするべきではありません。
コンサルティングはプロジェクトチームのメンバーや、クライアントと議論をしながらアウトプットを進化させていく仕事です。相手の意見を尊重し、自分の仮説に進化の余地があるなら貪欲に取り込む姿勢が求められます。
ケース面接の流れ
ケース面接の流れはコンサルティング会社によって若干の差異があります。
また、中途採用面接なのか新卒採用面接なのか、リクルーティングイベントのように面接を集中実施するのか平日夜などのような個別実施かによってもフォーマットや流れが異なることがあります。
しかし、基本的な流れとしては、アイスブレーク・トーク→面接官が問題を説明→候補者が考えをまとめる時間→候補者が自分の解答を説明→面接官からの質問→候補者が回答(質問→回答を数回やりとり)→候補者からの質問、というようになります。
時間は1時間の場合もあれば、30分という場合もあります。
上記の流れの中に「候補者が考えをまとめる時間」をあげたとおり、 面接官から問題を提示されたら慌てて解答する必要はありません。
「少し考える時間を頂けますか?」とでも言って、持参したノート(先方が用意している場合もあります)に考えをまとめましょう。考える時間は、1時間の面接なら10~15分、30分の面接なら5分くらいが目安でしょう。
また、コンサルティング会社の会議室にはたいていホワイトボードが用意されているので、面接官に「ホワイトボードを使って説明して」と言われることもあります。この場合、ホワイトボードに素晴らしく綺麗なプレゼン資料を書く必要はありません。自分のノート上で展開した思考の流れを、ホワイトボードに整理しながら書いていくくらいで十分です。
ケース面接の問題例と解答例・回答のコツ
それでは、ケース面接ではどんな問題が出されるのか、いくつかの例題を示してその解答例をご紹介しましょう。予め言っておきますが、解答例はあくまでも例であり、これでなければいけないというものではありません。
ケース面接の問題に正解は無く、前にも述べたとおり、面接官は「正しい答か」より「正しい考え方か」を重視しますし、“正しい考え方”も一つとは限りません。
問題①売上高の推計
(問題)
東京23区内で走っている平均的なタクシー1台当りの1日の売上はいくらでしょうか?
→いわゆるフェルミ推定の問題です。
売上高の他に、市場規模、顧客数などのビジネス関連数値や、日本国内にある電柱の本数、この瞬間に飛んでいる飛行機の数といった「突拍子もない」数値の推計を求められるケースもあります。
また、例題として後述する売上拡大などの戦略検討問題への導入質問として、売上高の推計が求められるようなケースもあります。
(ポイント)
この手の問題を考える際には、大きく分けて「ミクロからの積み上げ」と「マクロからのトップダウン」の2つのアプローチがあります。いずれの場合も、自分で大きさの目途がつく数値を出発点に、論理を構成していきます。
(▼解答例)
ミクロから積み上げる場合
ミクロから積み上げる場合、例えば自分がタクシーに乗る場合に平均いくら位を払うかから出発するやり方があります。
売上高=客数×客単価ですから、自分の例を参考にして平均客単価を推計すれば、あとは1日の平均客数を推計すればよいことになります。
例えば自分の経験上、平均するとタクシー利用時に2,000円位払っているとしましょう。もし自分が“平均的”なユーザーであると思えるならこの数値を使えば良いのです。
一方、自分はタクシー利用の多くが業務利用で経費として落とせるという安心感があり、やや高くてもタクシーを使うとか、時間の有効活用のためにやや長い距離でもタクシーを利用するという特殊事情があると感じているとします。
そんな時は、一般的な客単価は自分の場合より少ない(短距離利用が多い)と考えて、客単価を1,500円と置くといったような補正を加えます。
次は1日あたりの客数です。タクシーの営業時間=実車(客を乗せている)時間+空車の時間です。
まず実車時間ですが、先ほどの客単価1,500円がどのくらいの時間に相当するのか考えます。
タクシーの料金は最初2キロまで約700円、その後は約250メートルごとに80円ですから、1,500円分走るということは、初乗り2キロ+料金比例部分(1,500円-700円)÷距離単価80円×0.25キロ=2.5キロで合計約4.5キロの距離を走ることになります。
都内の自動車の平均走行速度を時速約20キロと想定すると、4.5キロを車で進むのに要する時間は15分弱です。この位の計算をすると、聞いている面接官は細かく詰めて考えている印象を持つものです。
ただし、タクシー料金の仕組みや、都内の車の速度のイメージが無ければ、自分が1,500円乗った時に何分くらいかかったかという実体験から時間を導くのも一案です。
客1人あたり15分とし、1日の営業時間を仮に12時間とすると、1日最大48人の客を乗せられることになります。あとは空車時間をどう見積もるかです。
“タクシー業界は一時自由化が進みタクシー台数が大幅に増加したものの、それが市場に供給過剰をもたらしたので監督官庁が台数規制を再導入して需給調整をした…”といった新聞記事を見たことがある人なら、需給バランスは良いので空車時間は実写時間より少なく空車時間:実車時間=1:3程度だと推計するのもありです。この場合1日の客数は36人になり、1日の売上は1,500円×36人=54,000円となります。
あるいは自分の経験上、タクシーを拾いたい時に空車が無くて待った経験がないので、空車時間は結構長いのではないかと理由づけして、空車時間:実車時間=1:1と推計しても良いでしょう。
この場合、1日の客数は24人で売上は1,500円×24人=36,000円となります。
上記の推計の場合、自分の経験から…とした部分(客単価や空車時間の推計)は、どうしても“論理が弱い”部分です。面接官からの質問で「それはあなたの特殊事例では?」といった“突っ込み”が入る可能性もあります。
そういった質問が来たら変にディフェンシブにならずに、例えば「そうですね。本当はこの部分の統計などを調査したいところです」くらいを言っておくと、自分の分析の弱い部分も認識している(=客観的にイシューを捉えられている)として、悪い印象は与えないでしょう。
マクロからトップダウンで行く場合
マクロからトップダウンで行く場合は、例えば「日本の平均年収は約420万円なのでタクシー運転手もその程度は稼がないと生活できない」といった論理から入る方法があります。
運転手の給料が年収420万円(=月収35万円)とすると、給与をそれだけ払うにはタクシー会社は少なくとも給与の2倍は売上がないといけない(つまり売上高人件費率50%)ので、年間売上840万円は必要。
運転手の月間稼働日数を20日とすると、1日当りの売上は3.5万円…といった具体的に論理を進める方法です。
もちろんこのアプローチの場合も、タクシー運転手の年収を日本の平均と見る根拠とか、タクシー業界の売上高人件費率の推計根拠といった補正ポイントがあるので、その点は考えているということを示す必要があります。
ボトムアップでいくのか、トップダウンでいくのかの選択は、出発点となる自分の“手持ちの数字”(上記の例なら、自分の経験としての客単価や、日本の平均年収データ)として、どんなものを持っているのかにもよります。
問題②売上高増加戦略の策定
(問題)
あなたは町のパン屋さんの経営者です。経営は堅実で順調ですが、ここらで一念発起して売上を大幅させたいと思っています。どんな戦略をとりますか?
→ケース面接の定番の一つである、売上増加問題です。対象となる企業は町の商店から、誰でも知っているBtoCの実存する大企業、知る人ぞ知るBtoBの実存する企業など様々です。
また売上増加の目標値も、倍増、50%増加、1年で50%増加などいろいろなケースがあります。
(ポイント)
売上増加問題が出たら、出発点は「売上=客数×客単価」です。さらに「客数=正味客数×リピート回数」というように分解することもあります。いずれにしても、これらの“因数分解”から出発しましょう。
ただし、最近はケース面接対策本や就職エージェントのサポートもあって、こうした因数分解だけでは他の候補者と差別化することが難しいのも事実ですので、あくまでもこれが入口と捉えましょう。
尚、類似の問題として「利益増加問題」もあります。こちらは「利益=売上―費用」という分解がまず必要で、その上で売上の因数分解と費用の要素分解(費用=固定費+変動費)が求められることになります。
(▼解答例)
パン屋さんのケースの場合、売上=客数×客単価と分解した上で、客数と客単価のどちらを増加させるのか、もしくは両方か、といった検討が必要になります。
町のパン屋さんの置かれた経営環境を勘案して、どちらを増加させるのが現実的なのか、どうやって増加させるのかを示す必要があります。
例えば客数を増加させる場合、現在、顧客数拡大を妨げているものは何かを考えてみます。
潜在顧客がお店を知らないからなのか(認知の問題)、顧客が欲しい商品をそろえていないからなのか(品揃えの問題)、それとも販売方法などの流通の問題なのか…、
それらの障害を取り除く方法が、打ち手のオプションになります。認知拡大が必要なら広告宣伝を増やすことが考えられます。
品揃えが商圏の顧客層にマッチしていないのであれば(例えば一人暮らしの多い地域で、すぐ食べられる調理パンの品揃えが薄いなど)、品揃えの改善が必要です。
販売方法もデリバリーの導入、営業時間の拡大、などの打ち手オプションが考えられます。
またリピート率を増やすことで、のべ顧客数を増やすためにポイントカードを導入するといった方法も考えられます。
一方、客単価を増やすのであれば、単価の高い商品(洋菓子など)の拡大や、まとめ買いを即すための仕組み(飲み物とのセット販売や、パッケージ商品など)を導入することが考えられます。
こうした打ち手オプションを、実行可能性(自店のスキルなど)、必要な時間・コスト、効果のインパクトの大きさ、他店との差別化力の大きさといった視点から評価して、どの打ち手を行うべきかの提案として絞りこんでいきます。
上記のオプションの中で言えば、顧客増加のための営業時間の拡大やデリバリー、リピート率向上のためのポイントカードや、まとめ買い促進のためのセット販売・パッケージ商品、営業などは、比較的短期間で新たなスキルを導入しなくても実行できそうです。
一方、新たな商品の導入は、現状のスキルや設備の制約ですぐには出来ない可能性があります。尚、ケース面接によっては、問題の中で「あなたは社長として」とか「マーケティング担当役員として」といったように、問題に直面しているのが誰かが指定される時があります。
そういった場合は、自分が提案しようとしている打ち手が、問題で設定された“主人公”にとって実行可能なのかも制約条件になります。
問題③資料・データから示唆を読み取る問題
(問題)
以下の図はいわゆるドラッグストア業界のある年の売上高と営業利益率を散布図にしたものです。このグラフからの示唆をもとにして、図のA社が今後とるべき戦略を考えて下さい。
(ポイント)
→経営課題の問題ですが、資料から示唆を読み取ることを求められています。コンサルタントの仕事では、データや資料から示唆を抽出することを求められることがよくあります。
そうしたデータを読み取る力を問われる問題です。単純な売上拡大問題などよりやや難しい点は、こうしたデータを提示する場合、面接官側には“気付いて欲しい示唆”があることが大半であるため、単純な売上拡大ケースのように候補者が自由に論理を展開するのが難しいことです。そこに気付ければ面接官との会話はスムーズに進みます。
候補者側がポイントとなる示唆に気付いていなそうだと思えば、面接官は質問を通じてその点をほのめかしたりします。
面接官の質問の意味するものを早く理解して、その示唆を導きだすことが必要になるので、コミュニケーション力の重要性が高いケースとも言えます。
(▼解答例)
散布図が出された場合、注目するのは2点です。まずは、一直線に並んでいる、山型に並んでいる、V字型にならんでいる、などの相関関係が無いかをチェックします。統計を学んだことのある方なら馴染みのある視点かと思います。
もう一つの視点は、グループ分けする余地が無いかです。経営学の分野ではこうした散布図上のデータポイントを、4象限のようないくつかのグループに分けて示唆出しをすることがあります。
事業ポートフォリオ管理のため、縦軸に各事業の市場成長率、横軸に各事業の相対市場シェアをとった散布図を4象限に分けて語るプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)理論は有名です。
さて、問題のグラフですが、大きくわけると左のグループと右のグループに分かれ、左のグループで利益率の高い点をプロットしてみると右下がりのように見えます。
一方、右のグループは緩やかな右上がりのように見えます。
そして問題になっているA社はその2つの傾向線のぶつかるあたり、つまり「V字の谷」のあたりに位置していることがわかります。
つまりA社は現在のポイントより左側にシフト(規模を縮小)するか、右側にシフト(規模を拡大)することが打ち手になるのではないかという示唆が導きだせます。
これをビジネス的に翻訳するとどうなるでしょう?
経済学や生産管理を学んだことのある方なら、右側へのシフトについては「スケールメリット」という言葉が浮かぶのではないでしょうか?
左側へのシフトはやや難しいのですが、「ニッチ」とか「隙間産業」という言葉が思い出せると説明しやすいと思います。
ここまで来ることができれば、あとはこの左右へのシフトが戦略的に考えた時に何を意味するかを考える番です。
右へのシフトは規模を拡大することですから、積極的な出店戦略やM&Aによるスケールメリットの追及が考えられます。
左へのシフトは規模を絞りこんで利益率の高い事業に特化することに対応します。
ドラッグストアの場合、いわゆる大衆薬より処方薬(医師の出す処方箋に基づいて薬局が調剤する医薬品)の方が利益率は高いので、例えばそちらの分野の比重を高めた店舗を増やすといったことが考えられます。
ケース面接でよくある失敗例
ここからは、ケース面接でよくある失敗例について、2つご紹介します。失敗例から学び、柔軟性を保ちながら、他人の意見を尊重し、自身のアプローチを適切に調整することがケース面接での成功に繋がります。
失敗例①想定外のケース面接の形式に思考が停止しボロボロになる
ケース面接でよくある失敗例の1つ目は、想定外のケース面接の形式に思考が停止しボロボロになることです。ケース面接というと、一般的にはある程度のパターンがあると思われがちです。
しかし、実際にはコンサルティングファームや応募するポジション、そして面接を担当するコンサルタントによって、予測できないケース面接が行われることがあります。
通常、一つのケースに対して一度の面接が行われ、そのケースに関する問題を解くのが一般的なアプローチです。ただし、これはあくまで「傾向」であり、必ずしも全てのケース面接がこの方法で行われるわけではありません。
実際の事例として、予想外の状況で短期間に複数の簡潔な質問が投げかけられることがあります。
回答時間は非常に制約され、論理的思考、フェルミ推定、および基本的な数学的計算が必要とされる問題が次々に出題されることがあり、ケース面接の準備を進める中で、多くの人が「通常のケース面接」に焦点を当てすぎ、変わり種の面接に対応できないことがあります。
対策として、まず心に留めておくべきことは、ケース面接が単一のスタイルに縛られるものではないということです。面接のアプローチはファーム、チーム、面接官によって異なることを忘れないでください。
また、事前に情報収集を行うことも重要です。特に転職エージェントは、各企業やチームの面接スタイルについて詳しい情報を提供できることが多いので、アドバイスを受ける価値があります。
失敗例②ケース面接の勉強をしすぎて思い込みの考え方を持ってしまう
ケース面接でよくある失敗例の2つ目としては、ケース面接の勉強をしすぎて思い込みの考え方を持ってしまうことが挙げられます。
もちろん、勉強を怠ることは良いことではありませんが、一度学んだ知識に過剰に固執しすぎることも問題を引き起こす可能性があります。
例えば、本に書かれた思考フレームワークに過度に依存することで、柔軟な発想が制約され、他人の意見に対する受け入れ態勢が弱まることも考えられます。
確かに勉強は大切ですが、その知識が実際の状況で活かせなければ、意味が薄れてしまいますので、柔軟性を保つことも大切です。
ケース面接対策のためのおすすめ本・ウェブサイト
コンサルティングファームへの就職を希望する方から、「ケース面接への対策として参考にできる情報源はありますか?」と聞かれることがあります。
これまでに説明してきた内容を理解していただいていれば、本やウェブサイトで小手先のテクニックを身に付けるより、論理的思考やコミュニケーション力といった“地力”をつけることが王道であることはおわかりいただけると思います。
- ①ケース面接について説明しているコンサルティングファームのウェブサイト
- ②コンサルティングファームのケース面接問題の例が載っている書籍
- ③ケース面接に必要になる数字感を養う情報源
- ④論理的思考を鍛えるための参考書籍
いくつか参考になる書籍やウェブサイトをご紹介しましょう。
①ケース面接について説明しているコンサルティングファームのウェブサイト
外資系戦略コンサルティングファームの日本法人の中には、採用ページでケース面接について説明しているところがあります。面接する側であるコンサルティングファームが、考え方などを説明しているので参考になります。
– ベイン・アンド・カンパニー
– A.T. カーニー
出典:A.T.カーニー
②コンサルティングファームのケース面接問題の例が載っている書籍
事前に自分で練習をしておきたい場合、様々な問題の具体的イメージを掴みたい場合に例題集として使えます。
– 「過去問で鍛える地頭力 外資系コンサルの面接試験問題」(大石哲之著、東洋経済新報社)
– 「戦略コンサルティングファームの面接試験―難関突破のための傾向と
【おすすめの本①】
毎回聞かれることになる本について。初めに、ロジカルシンキング・フェルミ推定等を学ぶ際の教科書として必ず読んでほしいのが
『地頭力を鍛える』です!
就活を進めるほど、この本の凄さを目の当たりにするほどホントに全てが詰まってます。#就活 #ケース面接 #フェルミ推定 pic.twitter.com/3OdFOix6Q5— オスカー (@oscar_shukatsu) November 21, 2021
〉〉フェルミ推定のトレーニングにおすすめの本7選を現役戦略コンサルが紹介
③ケース面接に必要になる数字感を養う情報源
– 「常識として知っておきたいビジネス数字」(堀紘一著、祥伝社)
~古い本なので数字そのものは最新版を自分でアップデートする必要あり。どんな数字を押さえておくべきかの参考にはなります~
④論理的思考を鍛えるための参考書籍
– 「ロジカル・シンキング」(照屋華子、岡田恵子著、東洋経済新報社)
– 「論点思考」(内田和成著、東洋経済新報社)
– 「仮説思考」(内田和成著、東洋経済新報社)
ケース面接対策=自分磨きである
ケース面接について、評価されるポイントや、考え方などを説明してきました。何度か触れましたが、ケース面接で評価されるのは“正しい答”ではなく“正しい考え方”と、その正しい考え方を伝えるコミュニケーション力です。
その意味では付け焼き刃での面接対策よりも、コンサルティングファームで活躍できるだけの実力をつけるために自分を磨くことこそが真のケース面接対策です。
よく知られているように、コンサルティングファームの仕事はハードです。クライアントは自社の命運をかけて依頼をしてくるわけで、コンサルタントは生半可な実力ではそうしたクライアントの期待に応えられません。もし付け焼き刃の対策で入社できたとしても、真の実力が無ければすぐに肉体的にも精神的にも燃え尽きてしまい、却って不幸な結果になります。
昔、筆者がお世話になったあるコンサルティングファームのパートナーは、「自分が入社オファーを出す人は、パートナーになれる資質があると思う人だけ」と言っていました。それだけコンサルティングファーム側も真剣にケース面接に臨んでくるのです。ケース面接への対策、それは自分の実力を磨くことです。
ビジネスパーソンとしての自分を高めるための努力を怠らないことこそが、実はケース面接を乗り切るための最良の方法と言えるでしょう。