顧客からの問い合わせに対して正確かつ漏れなく対応したり、プロジェクトの進行にあたってタスクの実行漏れをなくしたりすることは基本的かつ重要な仕事です。
しかし、当たり前の業務であるからこそ、万が一対応漏れや対応ミスが発生した場合、重大なクレームに発展したり、事業そのものへ大きな影響を与えたりすることも考えられます。
そこで、このような事態に発展する前の対策として有効なのが「インシデント管理ツール」を活用することです。
今回の記事では、インシデント管理ツールとはどのような機能が備わっているのかを解説するとともに、代表的なインシデント管理ツールの例も紹介します。
インシデント管理ツールの主な種類
そもそも「インシデント」とは、日本語に直訳すると「事象」や「出来事」といった意味を表す言葉ですが、ビジネス業界においては「重大な事故につながるおそれのある出来事や危機」といった意味で使われることが多い傾向にあります。
たとえば、顧客からの重大なクレームが発生した場合や、本来送るべき相手ではない顧客や取引先に対してメールを誤送信し相手先から指摘を受けた場合など、インシデントにはさまざまな事象が想定されます。
さらに、「ISO22300(2.1.15)」ではインシデントのことを「中断・阻害、損失、緊急事態、危機に、なり得るまたはそれらを引き起こし得る状況」とも定義しており、人為的なミスだけでなくシステム上のトラブルなどもインシデントに含まれることになります。
すなわち、インシデント管理ツールとは、人為的・システム的な問題を問わず、重大な事故や危機につながりそうな事柄を蓄積し担当者間で共有することを目的としたシステムやツールのことを指します。
また、発生したインシデントに対して影響を最小限に留めたり、再発防止に役立てたりすることもインシデント管理ツールの重要な役割のひとつです。
インシデント管理ツールは主に「問い合わせ管理」と「プロジェクト管理」の2タイプに分類され、それぞれ異なる機能が搭載されています。
両者はどのような違いがあるのか詳しく見ていきましょう。
問い合わせ管理
問い合わせ管理は、その名の通り社内・社外を問わずさまざまな質問や問い合わせ内容を蓄積し、迅速かつ正確に対応することを目的としたインシデント管理ツールです。
代表的な機能としては以下のようなものが挙げられます。
問い合わせ案件を一元的に管理
顧客や取引先、社内などからいただいた問い合わせを一元的に管理できます。
メールはもちろんですが、チャットやSNS、電話など、あらゆる連絡手段に対応していることが特徴です。
問い合わせ案件の自動振り分け
メールなどでいただいた問い合わせ内容に応じて、フォルダやメールボックスなどに自動的に振り分けを行います。
たとえば、複数の製品を取り扱っている企業の窓口において自動的に振り分けができるようになると、担当者への引き継ぎや業務の割り振りも効率化できるでしょう。
案件の進捗状況をリアルタイムで表示
いただいた問い合わせの案件ごとに、回答済み・未回答・対応中など、進捗状況やステータスをリアルタイムで表示でき、返信漏れや対応漏れを未然に防ぎます。
AIチャットボットによる自動応答
「よくある質問」などに掲載されているような定型的な問い合わせ内容に対しては、AIチャットボットの機能を活用することで無人対応が可能になります。
たとえば、商品の価格や納期、基本的な仕様などを案内する際にはAIチャットボットの活用によって業務効率化につながるでしょう。
問い合わせ内容の集計・分析
窓口に寄せられた問い合わせや質問内容を集計することで、どのような内容の質問が多かったのかが分析でき、さらなる業務効率化に役立てることができます。
特に問い合わせの頻度が高い質問内容については、ホームページの「よくある質問」に追加したり、AIチャットボットを活用したりすることもできるでしょう。
プロジェクト管理
プロジェクト管理は、業務を進行していくうえで不可欠な進捗管理やメンバーの権限管理、情報共有などを目的としたインシデント管理ツールです。
代表的な機能は以下の通りです。
プロジェクトの進捗管理
プロジェクトがスケジュール通りに進行しているか、タスクの漏れが発生していないかなどを管理します。
万が一、スケジュールに遅れが生じたりタスクの対応漏れが生じたりしてりいると、顧客や取引先からの重大なクレームに発展するおそれもあるでしょう。
そのようなリスクを軽減するためにもプロジェクトの進捗管理は重要です。
メンバーの権限管理
情報漏えいのリスクを最小限に留めるためにも、役職や担当業務に応じて機密情報や顧客情報へアクセスできる社員は必要最小限にしておく必要があります。
そこで、プロジェクト管理ツール上で社員ごとに情報へのアクセス権限を設定します。
さまざまな情報の通知・共有
自社および競合他社の製品やシステムにおける新サービスのリリース情報やアップデートの情報など、プロジェクトを進めるうえで関連性の高い最新情報を収集し、関係者間で共有できる機能もあります。
自社のプロジェクトを進行するうえでの戦略に役立てることもできます。
インシデント発生状況の把握
万が一、プロジェクトの一部で重大なエラーやトラブルが発生した場合、インシデントの発生状況をリアルタイムで共有し、関係者間で把握できる機能もあります。
インシデントの早期解決には関係者間で迅速な情報共有を図り、解決方法を検討することが求められます。
また、インシデントの発生そのものの報告が遅れ、対応が後手に回らないようにするためにもインシデント管理ツールの活用は極めて重要です。
インシデント管理ツールの選び方
インシデント管理ツールにもさまざまな種類・製品が存在し、どのような基準で選ぶべきかお悩みの方も多いはずです。
そこで、選び方のポイントや基準について特に重要な3点をピックアップし紹介しましょう。
必要な機能があるかどうか
問い合わせ管理・プロジェクト管理の代表的な機能として紹介した上記の項目は、必ずしも全てのインシデント管理ツールに実装されているとは限りません。
そのため、自社の業務において必要な機能をピックアップし、それらの機能が網羅されているかを比較しながらインシデント管理ツールを選定しましょう。
導入コスト
インシデント管理ツールに実装された機能や、利用できるユーザー数(ライセンス数)によっても導入コストは異なります。
インシデント管理ツールの料金体系は、ほとんどが初期費用+月額費用という形で提供されており、なかには初期費用が一切かからず月額費用のみで利用できるシステムも存在します。
インシデント管理ツールは必ずしも全社員分のライセンス数を確保しておく必要はなく、プロジェクト単位や窓口業務を担当する部署単位で契約することで無駄がなく最小限のコストで運用できるはずです。
操作性・扱いやすいUI
インシデント管理ツールはPC上で案件やプロジェクト管理を行いますが、システムの使いやすさによっても業務効率や生産性は左右されます。
たとえば、多くの機能が搭載されたツールであっても、画面上のボタン配置や大きさが適切でないと操作性は低下し業務効率が良いとはいえないでしょう。
実際にインシデント管理ツールを操作するのは現場で働く社員のため、担当者の意見も参考にしながら複数のツールを比較し、使いやすいものを選ぶようにしましょう。
なお、現在多くのインシデント管理ツールは、1週間から1ヶ月間程度のトライアル期間を設けているところがほとんどです。
クラウドシステムとして提供されておりトライアルのための導入に手間もかからないため、できるだけ多くのツールに触れて使い心地を確かめてみましょう。
おすすめのインシデント管理ツール5選比較表
インシデント管理ツールにはさまざまな機能があることが分かりましたが、実際にどのようなツールが提供されているのでしょうか。
代表的なインシデント管理ツールをご紹介していきます。
特徴 |
|
---|---|
Zendesk | リクエストの受領やサポートの対応を開始したことを、顧客に対して自動的に通知できる機能を実装 既存システムとコーディングをすることなく統合でき、連携が簡単 |
メールディーラー | 対応中の案件をほかの担当者が着手しようとした場合、警告のメッセージを表示し重複を防止 メール送信後、一定時間内であればキャンセルが可能 |
Re:lation | 楽天市場やYahoo!ショッピングとの連携にも対応 Twitterソーシャルリスニング機能を実装 |
Redmine | オープンソースソフトウェアのため無料で利用可能 シンプルなデザインとUIで使いやすいシステム |
Backlog | 作業マニュアルや議事録などをまとめるのに役立つWiki機能を実装 スタータープランからプラチナプランまで導入規模に応じて選択可能 |
Zendesk
「Zendesk」は問い合わせ管理に特化したインシデント管理ツールです。
メールやチャット、SNS、電話、チャットボットといったさまざまな問い合わせチャネルに対応し、質の高い顧客対応を強力に支援。
いただいた問い合わせ案件はシステム上で一元的に管理され、対応漏れや返信の遅れなどを未然に防止します。
顧客満足度の向上に役立つポイントとしては、リクエストの受領やサポートの対応を開始したことを自動的に通知できる機能が実装されている点が挙げられるでしょう。
これにより、顧客は「自分の問い合わせに気付いていないのではないか」「いつになったら着手してくれるのか」といった不安を抱くこともなく、返答がくるまで安心して待機できます。
ちなみに、クラウドシステムである「Zendesk」は、現在運用している既存システムとの連携も極めて簡単で、コーディングをすることなく統合できます。
自由自在なカスタマイズが実現できることで、業種を問わずあらゆるビジネスシーンに適応できるメリットがあります。
なお、「Zendesk」の料金体系は以下の通りです。
- Suite Team $49
- Suite Growth $79
- Suite Professional $99
メールディーラー
「メールディーラー」も問い合わせ管理に特化したインシデント管理ツールです。
メール、電話、チャット、LINEといった複数の問い合わせチャネルに対応し、クラウドシステム上で一元的に案件を管理します。
「未対応」「対応中」「完了」のステータスごとに案件が管理されるため、担当者ごとに状況がひと目で確認できます。
問い合わせ窓口で発生しがちな問題として、案件着手のタイミングによって担当者が重複し、1つの案件に複数名の担当者がアサインされてしまい、顧客や取引先に複数のメールが届いてしまうことがあります。
このような問題を解決するために、「メールディーラー」では万が一対応中の案件をほかの担当者が着手しようとした場合、警告のメッセージが表示されるようになっています。
また、メールを送信してから内容に誤りがあった場合、一定時間内であれば送信をキャンセルし正しい内容に書換えられる機能も搭載。
これにより、万が一宛先に誤りがあったとしても誤送信を防止でき、顧客や取引先からのクレームや情報漏えいを抑止できます。
「メールディーラー」の料金体系は以下の通りです。月額費用はユーザー数(ライセンス数)やメール通数によって変動します。
- 初期費用 50,000円〜
- 月額費用 20,000円〜
Re:lation
「Re:lation」も問い合わせ管理に特化したインシデント管理ツールです。
メールや電話、LINEといったチャネルはもちろんですが、Twitterアカウントとの連携や楽天市場、Yahoo!ショッピングとの連携にも対応。
ECサイトで物販などを展開している企業にとっては効果的なツールといえるでしょう。
ちなみに、SNS上へ製品やサービスに関する疑問や不満を投稿するユーザーも多いですが、そのような情報もキャッチアップできるよう「Re:lation」にはTwitterソーシャルリスニングとよばれる機能が実装されています。
自社の商品名やサービス名、または社名などをキーワードとして登録しておくことで、Twitter上でつぶやかれたツイートが自動的に受信箱へ割り振られます。
これにより、サポートや支援が必要な潜在的なユーザーを早期に発見でき、顧客満足度の向上が期待できます。
- 初期費用 15,000円〜
- 月額費用 12,800円〜
Redmine
「Redmine」はプロジェクト管理に特化したインシデント管理ツールです。
PCに直接インストールして使用するソフトウェアで、オープンソースのため一切料金はかからず無料で利用できます。
案件ごとにスケジュール管理が容易なガントチャートやカレンダー、ロードマップ、チャットなどの機能が揃っており、いずれもシンプルなデザインとUIで使いやすいシステムです。
オンラインコミュニティなどを通じてツールの使いやすさを追求した結果でもあり、業種や業態を問わず幅広い企業や組織に役立つツールといえるでしょう。
なお、より使いやすさを追求しチームでの業務効率化を高めたいという場合には、「Redmine」の機能をクラウドシステムとして実装した「My Redmine」や「Planio」というサービスもあります。
これらはいずれも有償となりますが、「Planio」の場合は個人のタスク管理に特化したBronzeプランに限り無料で利用できます。
Backlog
「Backlog」もプロジェクト管理に特化したインシデント管理ツールです。
チームや部署内で複数のプロジェクトを同時に進行し、担当者もバラバラにアサインされているケースも少なくありません。
そのような場合でも、「Backlog」であればプロジェクトごと、担当者ごとに進捗やタスク管理を明確化でき、対応漏れを未然に防ぎます。
作業マニュアルや議事録などをまとめるのに役立つWiki機能や、クラウド上でデータを共有できるファイル共有機能、IPアドレス制限による個別管理など、プロジェクト進行を円滑化するさまざまな機能を実装しています。
「Backlog」の料金体系は以下の通りです。
- スタータープラン 2,640円/月
- スタンダートプラン 12,980円/月
- プレミアムプラン 21,780円/月
- プラチナプラン 55,000円/月
業種・業務内容に応じて最適なツールを選ぶ
今回紹介してきたように、インシデント管理ツールにはさまざまな機能があり、「問い合わせ管理」または「プロジェクト管理」それぞれの目的に合わせて最適なツールを導入することが重要です。
現在提供されているインシデント管理ツールの多くはクラウドシステムに対応しており、導入やカスタマイズも極めて簡単です。
また、導入にあたってはトライアル期間が設けられているケースも多いため、複数のインシデント管理ツールを実際に使いながら自社に合ったものを選んでみましょう。