近年、コンプライアンス意識の高まりや企業のガバナンス強化のため、厳密なルールのもとで契約書を交わし取引を進めるのが常識となっています。
対等な取引を行うためには法律的な専門知識や情報が不可欠であり、企業によっては法務部門の担当者がリーガルチェックを行っているケースがほとんどです。
しかし現在、テクノロジーの発達によってAIによる契約書チェックサービスが登場し注目を集めています。
今回はAIによる契約書チェックサービスの概要とメリットを紹介するとともに、代表的なサービス事例についても解説していきます。
- 契約書チェックサービスとは
- 契約書チェックサービスのメリット・デメリット
- 電契約書チェックサービスの事例
契約書チェックの業務に関わる問題点
企業間の取引において欠かせない契約書は、明確な法的根拠をもとに作成しなければなりません。
もし契約書を交わしていなかったり、契約書の内容に不備があったりした場合、取引上のトラブルが発生した場合に訴訟に発展するリスクがあります。
企業によっては契約書のひな形(フォーマット)があり、契約内容に合わせて金額や納期などを変更しながら使用するケースも多いですが、取引先によって契約書の書き方は異なるもの。
先方の契約書の内容をチェックし、問題ないかを確認したうえで正式な契約を結ぶのが理想的といえるのですが、法律に詳しくない一般従業員にとって判断は難しいもの。
そこで企業によっては法務部門が契約書の内容をチェックしているのですが、高度な専門知識が要求されることもあり、多くの企業では人材が不足しています。
法務部門が存在しない中小企業やベンチャー企業にいたっては、外部の専門家に契約書のチェックを依頼するケースもあり、多額のコストがかかってしまいます。
このように、対等かつ正当な取引を行うためには契約書のチェックが不可欠である一方で、多額のコストが必要とされている現状があるのです。
AIによる契約書チェックサービスとは?
契約書チェックにかかわる人材の不足やコストの課題を解決するための方法として、AIによる契約書チェックサービスが注目を集めています。
これは、専門的な知識をもった人間が契約書のチェック作業を行うのではなく、AIが人間に代わって内容をチェックするというもの。
基本的な使い方としては、WordやPDFといった形式の契約書ファイルをシステム上にアップロードし、自然言語処理や文字認識などのAI技術で内容を精査。
契約書に記載された内容に不備がないか、法的なリスクを明示するとともに、必要な条文や修正が必要な箇所などの例を提示します。
単に文字を読み取って理解するのではなく、専門用語や法律的な内容も網羅されているため、極めて専門性が高く一般的なAIシステムとは全く異なるものと考えて良いでしょう。
AIの契約書チェックサービスによっても多少機能は異なりますが、基本的には一般的な契約書や秘密保持契約書(NDA)などにも対応できます。
AIによる契約書チェックサービスの具体的な機能
AIによる契約書チェックサービスの中には、具体的にどのような機能が実装されているのでしょうか。
代表的な3つの機能について解説します。
リーガルチェック
システム内に膨大な契約書の内容が学習データとして記録されており、これらをもとに契約書のチェックを行っています。
不足している条項がないか、法的に自社に不利益となる条項が記載されていないかをAIがチェックし、それを解決するための追加条項の案なども提示します。
このような作業をリーガルチェックと呼びますが、契約書チェックの段階で予想される法的なリスクや発生し得るトラブルなども学ぶことができ、担当者の法律的なリテラシー向上にも役立ちます。
契約書のデータベース化
また、もうひとつの大きな役割として、これまで交わしてきた契約書をデータベース化するという機能もあります。
新たな取引先と契約書を交わす場合に、過去に自社が取り交わしてきた契約書の内容を踏まえて比較・検討することができます。
また、修正が必要な条文や内容が出てきた場合にも、過去の契約書データがあれば検討しやすくなるでしょう。
契約書をデータベース化しておけば、現在契約中の取引先との条件が変わった際にも、具体的に契約書のどの部分を変更すれば良いのか迅速に調べることができ、取引先とのやり取りもスムーズに進むのではないでしょうか。
さらには、よく使用する条文の文言なども記録できるため、会社として統一感のある契約書に仕上がるはずです。
契約書の自動作成
契約書チェックサービスを提供しているシステムのなかには、契約書をAIが自動的に生成してくれる機能を有しているものもあります。
スタートアップ企業やベンチャー企業など、初めて契約書の作成をする際においても法律の専門家に任せることなく自社で対応できます。
AIによる契約書チェックを利用するメリット
AIの契約書チェックサービスを利用する最大のメリットは、なんといっても圧倒的なコストの安さが挙げられます。
リーガルチェックを弁護士に依頼した場合、一般的に5〜10万円程度の費用が発生しますが、契約書チェックサービスの場合は1通あたり1万円程度から対応可能。
毎月のようにさまざまな企業と契約書を交わしていたり、契約内容の変更が頻繁に発生するような場合であれば、月額固定料金で利用できるサービスもあります。
また、人間ではなくAIが瞬時に契約書の内容を理解して判定するため、結果が出るまでの時間も圧倒的に早いです。
いち早く契約書を交わし、スピード感をもってビジネスを進めたい方にとっては心強い味方になってくれるのではないでしょうか。
AIによる契約書チェックを利用するデメリット
コストの安さとスピーディーな対応というメリットがある反面、当然のことながらデメリットとして考えられることもあります。
AIによる契約書チェックサービスは、さまざまな契約書の事例を学習データとして記憶し、それをもとに最適な答えを導き出すという仕組みで成り立っています。
そのため、特殊な条項を盛り込む必要がある契約書や、過去に同様の事例がない契約内容の場合には対応できず、弁護士や法務部門の担当者に依頼する必要があります。
また、AIが確認したからといって全面的に間違いないと信じるのは危険であり、最終的にはきちんと人間の目で確認し直すことも必要です。
誰の責任の下で契約書を作成し、取引先と正式な契約を交わすのかを決めておかないと、万が一トラブルになった際に社内で対応できる人がおらず、取引先や顧客から信頼を失うことにもなりかねません。
AIによる契約書チェックサービスの事例
ここからは、実際に提供されているAIの契約書チェックサービスについて詳しく紹介していきましょう。
GVA assist
GVA assist(ジーヴァアシスト)は、GVA TECH株式会社が提供しているAIによる契約書レビュー支援サービスです。
GVA assistでは、自社の契約審査に関するノウハウや契約書のひな型をセットアップしておくことで、以下3つの観点から定型リスクや条文の抜け漏れをAIによって検知します。
リスク単語 | レビュー対象の契約書にリスクが「ある」場合、瞬時に検討すべき要素を検知し見落としを防止。 |
不足単語 | レビュー対象の契約書に「不足している」重要な要素を検知し抜け漏れをチェック。 |
不足条文 | 理想のひな型と比較して、レビュー対象の契約書に不足している条文を検知。 |
レビュー対象の契約書に「ある」表現だけでなく「ない」ことがリスクになる表現も検知し、契約書に潜む「抜け・漏れ」を防ぎます。
契約書を修正する際にも、修正方針と修正例をレビュー中に常時参照でき、推奨条文だけでなく譲歩案・別パターンの条文もあるため、取引先に拒まれた場合でも現実的な修正が可能です。
また条文検索機能を駆使することで、数百種類の契約書に含まれる全条文を対象にキーワード検索で欲しい条文をカンタンに発見でき、すぐに活用できるため、より早く正確に条文修正ができます。
契約書を仕上げる際にも契約書の形式的なチェック作業はシステムが代替し、チェックすべき箇所の特定や表記ゆれ一括置換機能で、単純作業の時間を大幅に短縮することができます。
また、著名法律事務所や業界標準の契約書ひな型を数百種類搭載しており、契約書のレビューだけでなくドラフトの効率化にも利用できます。
料金は、各企業の法務部門の体制に応じ個別で見積りとなっており、ZOOMでのオンライン無料デモも毎日開催されているので、まずは一度お問い合わせしてみることをおすすめします。
LegalForce
LegalForceは株式会社LegalOn Technologiesが提供しているAIの契約書チェックサービスです。
取り扱っている契約書の種類は30種類にもおよび、AIが瞬時に不備や漏れを判断する自動レビューの機能を提供します。
さらに、契約書のひな形は200種類以上を搭載。
これは数ある契約書チェックサービスのなかでもトップクラスであり、極めて実用性が高いといえるでしょう。
もちろん、契約書のひな形や書式は企業法務の知見が豊富な弁護士が作成・サポートしているため、安心して利用できます。
また、法改正などによって契約書の内容を変更しなければならない場合も迅速に対応します。
契約書のバージョン管理やポリシー制御、修正文例など、さまざまな機能を随時拡張、追加しているため、継続的に長期で使い続けたい方におすすめ。
LegalForceは大企業や法律事務所などにおいても導入実績があり、信頼性の高さがうかがえます。
LawFlow
LawFlowは、自然言語処理に特化したAIによる契約書自動チェックができるリーガルテックサービスです。
10名を超える弁護士が開発に関与したAIが、いつでも契約書の全条文を自動チェックし、瞬時にリスクや必要な条文を教えてくれます。
法律事務所や企業の法務部だけでなく中小企業や個人事業主様の在宅勤務・テレワークによる法務をも強化し、契約にかかる費用と時間を削減できます。
自社の契約書や過去に締結した契約書をひな型データとして設定することで、ひな形データとの差分チェックによって契約者・企業に特有の条項まで瞬時にチェックすることもできます。
その他、チェック結果を基に簡単一括修正ができるり「エディタ機能」、検知コメントを自分好みに追加変更できる「カスタマイズ機能」、提携弁護士による対応契約書の追加や精度向上施策を行う「弁護士カスタムサポート」など充実した機能を揃えています。
対応契約書は、デフォルトで20種類×2当事者の立場に対応しており、さらにエンタープライズ版では必要に応じて追加可能なので拡張性も十分です。
料金は基本機能のみのスタータープランなら無料で始められ、各機能を付加した月5万円~のエンタープライズ版なら、より最適化された環境で法務を効率化できます。
今ならエンタープライズ版の30日間無料トライアルを実施しており、まずはお試しで使ってみて必要な機能に絞ってプランを選択していくのも一つの手です。
2020年3月に正式版としてサービスが開始されたばかりのLawFlowですが、既に400以上のユーザーに登録されており、今注目を集めるAI契約書チェックサービスとなっています。
契約書の法的リスクを解消しながら業務改善につなげる
今回紹介したAIによる契約書チェックサービスは、契約締結時における法律的なリスクを未然に防ぐとともに、業務効率化を実現するうえでも重要な役割を果たすものです。
法務担当者がいない企業にとっては心強い味方になってくれるほか、法務担当者に業務負荷が集中している企業にとっても課題解決につながる有効なツールといえるでしょう。
特に2020年は新型コロナウイルスの影響によりテレワークが拡大し、働く環境が一新したという方も多いはず。
AIによる契約書チェックサービスは、新しい働き方とも親和性が高く、中小企業や創業間もないスタートアップ企業はもちろんですが、個人で活動しているフリーランスにとってもリスク管理に役立つサービスです。
法律的なリスクを少しでも軽減するためにも、ぜひAIによる契約書チェックサービスを検討してみてください。