GIGAスクール構想に始まり、2020年には小中学校でのプログラミング教育が開始されました。
これにより、すべての生徒がパソコンやタブレットを活用する時代が到来したと言っても過言ではないでしょう。
そんな中で、技術的な進歩が目まぐるしいのがAIです。そんなAIは、教育の現場でも活用できるのでしょうか。
本記事では、教育現場でのAIの活用について、そのメリットとデメリット、そして注意すべき点を詳しく解説します。
教育にAIは活用できる?
現在、AIはいたるところで活用されるようになりました。インターネット上のサービスだけでなく、スマートフォンや家電製品にもAIが搭載されるようになり、「AIは便利なもの」というイメージが浸透してきました。
そんなAIですが、注目しているのは教育現場においても例外ではありません。
教育現場でAIの活用を活用することで、教育の質を向上させたり、教師の負担を軽減できたりする可能性があります。
しかし、その一方で「どんな教育現場にもぴったりなAI」というものは存在しません。
「どんなことに困っているのか」、そして「どのようなAIなら導入できるのか」ということを考える必要があります。
教育現場向けAIとは?どんな活用方法がある?
教育現場に導入できるAIにはどういった種類があるのか、そしてどういった活用方法があるのかを紹介します。
教育現場向けAIには「教師向けAI」と「生徒向けAI」がある
教育現場には、主に「教える教師」と「教わる生徒」が存在します。
AIにも、使う人や用途に応じてサービスが提供されているのです。
たとえば、教える教師向けのAIは教師が日常的に実施しているような業務を効率化できます。
一方で、生徒向けのAIは学習を支援するために使用することが一般的です。
AIを導入する際には、まず「誰がどのように使うのか」や、「この部分を改善したい」といった目的を設定すると良いでしょう。
個別化された学習(アダプティブ・ラーニング)の提供
AIは、過去の実績や全体を判断して最適な学習方法を個別に提示できます。
これを利用することで、生徒一人ひとりの学習進度や理解度に合わせて学習内容を調整する「アダプティブ・ラーニング」が可能です。
アダプティブ・ラーニングにより、生徒の習熟度に応じた適切な問題や学習カリキュラムを提供できるようになります。
AIを用いた語学教育
2022年に突如登場したAIサービスである「ChatGPT」のように、違和感のないナチュラルな会話が成立するようにAIも進化を続けています。
音声合成や音声認識と組み合わせることで、「AIと会話する」ことが可能となります。
24時間利用できるので、好きな時に好きなだけ勉強することが可能です。
また、前項のアダプティブ・ラーニングと組み合わせることで、ユーザーのスキルレベルに合わせて学習内容を調整し、効率的な学習も実現できます。
採点業務の自動化
AIは、教師の負担を軽減するためのツールとしても活用されています。とくに、採点業務の自動化は、教師の時間を大幅に節約することに繋がります。
たとえば、画像認識と文字認識を組み合わせて生徒の答案をデジタル化することで、解答の答え合わせを自動化したり、AIが自動で文章の間違いを指摘したりすることなども可能です。
タブレットを使ったテストも今後増えることを考えると、テストから採点、添削指導までAIがすべて実施する未来が来るかもしれません。
教育現場へAIを導入する際に注意すべき点
AIは教育現場に多大なるメリットを与える存在ですが、注意しなければならない点も多いです。ここからは、AIが教育現場に与えるメリットを紹介します。
セキュリティに問題がないか
AIを導入する際には、セキュリティに問題がないかを確認することが重要です。とくに、生徒の個人情報を扱う場合には、その情報が適切に保護されているかを確認する必要があります。
ChatGPTをはじめとする多くのAIサービスは、さらに精度を高めるために「利用者が入力した情報を利用」しています。
もし、その利用される情報に生徒の個人情報が含まれていた場合、第三者にその子の情報が間接的に公開される可能性もあるのです。
そういったセキュリティの問題を発生させないためには、
- 入力した個人情報はサービス向上に利用しないことを事前に確認する
- 個人情報に関する事項はAIに入力しないこと
のどちらかを実施することを忘れないようにしましょう。
子どもに悪い影響を与えないか
AIの導入により、子どもたちの学習環境が大きく変わる可能性があります。その影響が子どもたちにとって良いものであるかを確認することが重要です。
AIの活用で最も怖いのが「AIに依存してしまうこと」です。
AIは、それまで人間がやっていた「考えること」を代替する存在であり、負担を軽減するために使用します。それは、逆に言えば「考える必要がなくなる」ことを意味します。
もし、生徒が「答えを教えてくれるAI」に依存した場合、「自分で考えなくなる」リスクがあるでしょう。
一方で、教員が採点や指導にAIを活用することで「生徒と向き合う時間が減る」ことも考えられます。
教育の「育」という字には、「知識だけでなく人間的にも成長させる」という意味も含まれています。
このことを正しく理解し、「生徒と向き合う」ことに注力できるように活用することが大事です。
AIのデメリットを正しく理解する
AIには多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。そのデメリットを理解し、適切な対策を講じることが重要です。
ここでは、AIのデメリットを3つ紹介します。
導入・運用にコストがかかる
まず、AIに限らず新しいサービスを導入する場合には少なからずコストが発生します。
導入時はもちろんのこと、使い続ける期間中は毎月料金が発生します。
また、それまで使っていなかった仕組みを導入するため、教員に対する教育コストも発生するでしょう。
導入するにあたって、導入から運用までの中長期的なメリットを考慮せずに導入を決めてしまうことで、無駄なお金を支払い続ける可能性もあります。
AIを導入するメリットは導入する現場によって異なりますので、「導入することでどのような効果が得られるのか、どのように現場の役に立つのか」をしっかりと考えた上で導入を進めると良いでしょう。
AIは必ず正しいとは限らない
AIは、必ず正しい答えを返してくれるとは限りません。
実は、AIは「統計的」な情報を元に判断します。たとえば、100人中95人に対しては最適な情報を提示するが、残りの5人に対してはまったく違う誤った情報を提示する可能性があります。とくに教育の現場においては、進路を決定する際など、場合によってはその子の一生を左右する場面もあるでしょう。
そのような場面においてAIを導入しようと考えた場合、その時に間違った情報を提示しないためにはどうすれば良いのかを正しく判断する必要があります。
とはいえ、「人間なら100%正しい情報を提示できるか?」と言われたら、答えとしては「NO」でしょう。
「AIも人間も間違う可能性がある」ということを前提において導入を決めることが大事です。
責任の所在が曖昧になる
もしAIが間違いを犯した場合、「誰が責任をとるのか?」という問題が発生します。
たとえば、生徒が使用するAIが間違った答えを提示した場合、その責任は誰がとるのでしょうか?
教員が間違った答えを教えたのであれば、その答えを訂正すれば良いでしょう。
しかし、前述の通りAIは「必ず正しい答えを教えてくれる」わけではありません。
教員があずかり知らぬところでAIが生徒に間違った情報を提供した場合、それを知る手だてがないことになりますので、「AIが間違った答えを提示しないこと」、もしくは「AIが間違った答えを提示した場合に教員が訂正できること」を考える必要があります。
AIでは解決が難しい分野の理解
AIは多くの問題を解決できますが、すべての問題を解決できるわけではありません。
現時点ではAIによる解決が難しい分野を紹介しますので、導入する際の参考にしてみてください。
感情の理解
大前提として、AIに感情はありません。
「自然な言葉を発する」ことで有名なChatGPTですらも、感情を理解することはできません。
前述の通り、AIは「統計的に確率の高い情報」を提示するだけです。
たとえば、「怒っているような文章が提示されたら謝罪の文を返答する」といったことは可能ではありますが、「なぜ怒っているのか」といった裏側を理解して返答しているわけではありません。
あくまでも、「怒っていることに対しては謝っていることが多い」という統計的な情報から返答を返しているだけなのです。
ただ、この「感情がない」ことを逆手にとり、聞き手の感情に左右されないアドバイスが求められるカウンセリングに活用している事例もありますので、必ずしもデメリットとは言い切れないことは覚えておきましょう。
創造的な学習の手助け
AIの多くは、過去に存在する膨大なデータから「それっぽいもの」を生成します。
「過去に見た何かに近いもの」を生成することは可能ですが、完全に「新しいもの」を作ることには向いていません。
創造性を育てるためには、新しい視点やアプローチを生み出し、既存の枠組みを超えて考える能力を必要とします。
AIは過去にあった情報を元にしか答えを出せませんので、「未知の問題」を考えることもできませんし、それに対する答えも持っていません。
また、創造的な学習には明確な答えがありませんので、試行錯誤や失敗も含めて「学習」していくことになります。しかし、AIには「失敗から学ぶ」という概念がありません。
倫理観や価値観の教育
AIはさまざまな答えを見つけるのが得意とされていますが、「倫理観や価値観」といった、人間が考えて判断をするような場面を代替するのは難しいとされています。
たとえば、「これはやってはいけない」「これはやっていい」といった線引きが難しいような場面ではAIを使わない方が良いでしょう。
とくに、文章を生成するAIは、頻繁に真実ではないことを返答することがあります。
たとえば、存在しない建物や地名を答えたり、まったく違う嘘の内容を教えてきたりなどです。
このような現象を「ハルシネーション」と呼びます。
ChatGPTに代表される高性能な生成AIでも同じであり、平気で嘘の情報を返答することがあります。
また、画像を生成するようなAIでも、著作権を侵害する可能性のある画像を出力することもあるでしょう。
「AIには倫理観がない」ことを理解し、この「倫理観を司るのは利用する人間」であることをしっかりと教育する必要があります。
教育現場向けAIサービス5選
ここからは、実際に教育現場に導入されているAIサービスを5つ紹介します。
今回紹介するサービスは、教育機関での利用を想定して開発されていますので、これまで紹介したデメリットは比較的抑えられるように作られています。
それぞれのサービスの特徴や事例を元に、自身の現場にあったサービスを検討してみてはいかがでしょうか。
atama+(アタマプラス)
atama plus株式会社の提供するatama+(アタマプラス)は、個別指導をサポートするサービスで、生徒一人ひとりの学習状況から最適なカリキュラムを作成してくれます。
同サービスは、さまざまな塾や予備校で導入されており、増田塾や駿台予備校、Z会といったハイレベルな教育現場に導入されています。
Qubena(キュビナ)
株式会社COMPASSの提供するQubena(キュビナ)は、AI型のデジタル教材を提供するサービスで、主に小中学校をターゲットとした教材を配信しています。
児童・生徒ごとに最適化した学習カリキュラムを提供するだけでなく、ここの学習状況を分析し、学校教育に役立てることも可能です。
同サービスは、東京都足立区で正式に採用され、足立区内の小中学校の全103校に導入されています。
参考:株式会社COMPASS「AI型教材「Qubena(キュビナ)」東京都足立区で正式採用」
足立区の各学校では、Qubenaの提供するAIドリルを自習課題や宿題として活用することで、児童・生徒の学力向上に勤めています。
Microsoft 365 Education
WindowsやWordやExcelといったソフトウェアで知られるMicrosoft株式会社は、教育機関向けのサービスであるMicrosoft 365 Educationを展開しています。
同社では、自社の持つOSであるWindowsを搭載したタブレットである「Surface」シリーズを筆頭に、コミュニケーションツールであるTeamsやWord、ExcelといったOffice製品を販売しています。TeamsでWordやExcelを共同編集したり、教師が課題を出して生徒に提出してもらったりすることも可能です。
その中に、AIを使って学習をサポートするLearning Acceleratorsがあります。
Learning Acceleratorsは、Teamsを通してオンライン学習をサポートするサービスであり、国語や算数・数学の自学学習をサポートする機能や、課題に対して生徒がどのような検索をしたのかを収集し分析する機能を有しています。
問題に対する答えだけでなく、「どのようにその答えに辿り着いたのか」を含めて分析・指導できることは、高いレベルの教育を実現する上で今後重要になるのではないでしょうか。
Duolingo
Duolingoは無料で使える言語学習プラットフォームであり、英語やドイツ語をはじめとする40言語以上を学習できます。
同サービスは全世界で使用されており、学習に使用するアプリの総ダウンロード数が5億を突破するほどの人気です。
それまでは読み書きをベースにサービスを展開していましたが、2023年3月にChatGPTを活用した「Duolingo Max」を発表しています。
参考:Duolingo「Introducing Duolingo Max, a learning experience powered by GPT-4」
Duolingo Maxにより、自分の文章を会話形式で添削してもらったり、AIと会話することで、より実践的な語学学習が可能となったりと、より高度なレッスンを受けられるようになります。
EdLogクリップ採点支援システム
大手IT企業であるNECが販売するのが、学校における採点および集計業務を自動化する「EdLogクリップ採点支援システム」です。
同サービスは、紙で実施したテストのスキャンから採点、集計までをデジタル化します。
これまでと同じ方式のままテストを実施できますので、「導入に関するハードルが低い」ことが大きな特徴です。
これまで紙で行っていた「丸つけ」をデジタル化し、かつAIがその採点を自動化するため、教師の負担軽減を狙えます。
同サービスは多くの中学校で採用されており、富山大学教育学部附属中学校や紋別市立紋別中学校にて導入されています。
AIを活用して質の良い教育を
これまで、学校教育と言えば紙と鉛筆を使って勉強する「アナログ教育」がメインでした。
それが、GIGAスクール構想によりタブレットが普及し、コロナ禍によるリモート授業の浸透で一気に「デジタル化」が加速しました。
そんな中で、次のステップとして活用が期待できるのがAIです。
AIを活用することで、タブレットを使ったデジタル教育はもちろんのこと、「アナログとデジタルのいいとこどり」をした教育も実現できます。
AIのメリットやデメリットを正しく理解し使いこなすことで、より良い効率の良い、高度な教育を提供できるのではないでしょうか。
リットを正しく理解し使いこなすことで、より良い効率の良い、高度な教育を提供できるのではないでしょうか。